01地理の大学入試問題傾向
01-A共通テスト
共通テストでは、難しい地名や用語などの細かな知識の有無を試される問題はありません。それに対し、“グラフ”や“統計”といった資料をよみといて解答を導く、資料分析問題が多く出題されます。資料分析問題が多く出題されるので、資料分析問題ができれば共通テストで高得点をとることができます。
では、資料分析問題では、どのような知識が問われているのでしょうか?
これらの問題では“知識を知っている、知っていないではなく、「地理の基本知識の使い方(=地理的思考力)をみにつけているか」を試すものが多くみられます。
例題をみてみましょう。(サンプルとして、センター試験の問題を使用しています。)
この問題の統計数値を覚えている人は、まずいないと思います。「GDPに占める鉱工業の割合が21.5%の国はスイスだ!」という人がいれば驚きです。そして、そのような解法をするのであれば、あらゆる統計を覚えておかないといけなくなります。
では、この問題はどのように考えて解答するのでしょうか?考え方はいろいろあると思いますが、その一つを紹介いたします。“製造業の雇用者1人当たりの工業付加価値額=高い技術力を必要とする工業がどれくらい発達しているか”という指標になります。①の国は工業の技術力が高く、②の国は日本程度、③④は技術力がまだそれほどでもない、となります。次に“GDPに占める鉱工業の割合=工業化の進行度合いまたは産業の中心が工業かどうか”、という指標になります。②~④の国は日本よりも工業化が進行している、もしくは国内産業の中心が工業であるということがわかります。
これらをもとに、日本と同じ水準の技術力をもつ工業が発達しているのは、①もしくは②となり、選択肢の国から①・②は韓国かスイスとわかります。スイスは観光産業も発達しているのでGDPに占める鉱工業の割合は低いと考えられ、①がスイス、②が韓国となります。ちなみに、③はメキシコ、④は中国です。
このようにセンター試験では、「勉強した知識を使って考え資料を分析する力=地理的思考力」が試されていることがわかります。これは共通テストにも同じことが言えます。
01-B私立大学
私立大学では、正誤判定、資料分析、空欄補充といったバリエーションに富んだ入試問題が出題されています。分野も、地形、気候などから地誌、分野複合問題など、さまざまとなります。ですから、これだけをやれば大丈夫ということはなかなか言えません。
では例題をみてみましょう。
問題 次の文章はアフリカ南部について述べたものである。よく読んで、空欄(A)~(D)に該当する語句を答えよ。
アフリカ南部には、標高1,000mを超す高原が広がっているが、この高原には南東に向かって高くなり、沿岸部に近い(A)山脈では最高標高3,482mにまで達する。この山脈がインド洋から吹いてくる湿潤な南東貿易風をさえぎるため、山脈の東側では降水量が多いのに対し、西側では降水量が少なくなる。とくに、大西洋を北上する(B)海流の影響を受ける大西洋岸では上昇気流が起きにくく、海岸砂漠である(C)砂漠が広がっている。また内陸部には、盆地状の高原があり、そこには(a)湿地に代表される広大な湿地帯が存在している。しかし、この湿地帯の西方や東方では、乾燥が激しいため、十分な降水があった時のみ流水が流れる河川である(D)が多く見られる。これらの乾燥地域では、広大な...(以下省略)
この問題は、「2013年度早稲田大学教育(文科系)第4問(一部抜粋)」です。空欄の答えは、「Aドラケンスバーグ Bベンゲラ Cナミブ Dワジ(涸れ川)」となり、それほど難しい知識が問われているのではないことがわかります。確かに空欄aの選択問題、「イ:オカヴァンゴ ロ:カッタラ ハ:スッド ニ:パンタナール(正解はイ)」は難しいですが、こちらは正解できなくても合格点はとれるはずです。
難関大学になればなるほど入試問題が難しくなるように思っている人もいますが、重要なことは合格に必要な得点をとることです。難しい問題ばかりの入試問題で合格のために80~90%得点しなければならないというケースはありません。難しい問題の場合は得点率が低く、易しい問題の場合は得点率が高くなっているのがほとんどです。ですから、合格に必要な得点をとるために、必要とされている力は何かということを考えます。
そこで先ほどの問題について考えます。早稲田大学にしては比較的易しい入試問題なわけですが、入試で出題された問題ですので、得点差が生じているはずです。なぜ得点差が生じるのでしょうか?ポイントは、用語・地名を断片的な知識として覚えておくのではなく、説明の文の中に“位置づけ”て覚えているかどうかなのです。
地理の私大入試に必要な力は
i)共通テスト同様、「地理の基本知識の使い方(=地理的思考力)」をみにつけているか
ii)文章の中に必要な用語を位置づけられているか=用語の正しい理解
iii)共通テストよりも少し多めの基本知識
の大きく3つと考えています。
i)・ii)については共通テストでも必要となる力ですので、私大用に対策が必要なのはiii)に対応するための知識拡充となります。しかし、i)やii)があってはじめてiii)が活きてくるわけですから、まずはi)とii)ができるように勉強をすすめていきます。
01-C国公立大学
国公立大学の記述問題は、共通テストレベルの知識が問われることがほとんどですので、きっちりと用語や地名が書けるようにしておく対策以外は必要ありません。
一方多くみられる論述式の問題は対策が必要となります。論述問題で問われている力は大きく2つあります。1つめは知識を単に覚えているだけではなく、ちゃんと理解しているかということです。例えば、偏西風と貿易風の違いについて述べよ。という問題では、「偏西風」と「貿易風」は何が同じで何が違うのかがわかっているかが試されています。この2つの風は、自然環境>気候>風であり、かつ大気の大循環で示されている風であることは同じです。一方、中緯度高圧帯から高緯度低圧帯に向かって吹くのが偏西風、赤道低圧帯に向かって吹くのが貿易風となります。つまり、高圧帯から低圧帯に向かって吹く風は同じであるが、低緯度に向かって吹くか高緯度に向かって吹くかは違うということになります。
もう1つは「わかりやすく、かつ過不足なく題意に対して解答できているか」ということです。例えば、マレーシアで油やしの生産が増えた理由を述べよ。という問題があったとします。この解答として、「マレーシアの天然ゴム生産が衰退したから」では不十分となります。なぜなら、天然ゴムの生産が衰退したから他の作物栽培への転換が必要なことは推測できるかもしれませんが、それが「油やし」でなければならない理由はわかりません。食物性油脂、洗剤などで国際的価値が高まっていたこと、他に大規模に生産している国がなかったので、独占的な生産が可能であったことを背景に油やしに転換したことまでを論じる必要があります。
知識を正しく理解し、正確に文章で説明ができるようになること、これが国公立大学の論述問題で必要な力となります。
大学入試問題ごとにみてきましたが、まとめますと「地理の入試問題で合格得点をとるために必要な力」として、共通テスト・私大入試・国公立大入試共通で、
- ① 基本的な知識
- ② 基本的な知識が文章(文脈)の中に位置づけられていること
- ③ 基本的な知識を使って、資料分析などの解答に結びつける力=地理的思考力
が必要となります。地理ではこの①~③の力を「地理の基礎力」と考えています。
さらに、
私大では“共通テストよりも少し多めの基本知識”、国公立大(一部私立大)の論述問題では、“題意に対してわかりやすく、かつ過不足なく説明する力”が必要だということになります。
次に「地理最強の勉強法」について、説明していきます。